大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和26年(う)392号 判決

(イ)被告人に詐欺の犯意がない。(ロ)被告人には、本件建物が己に他の債務のため担保に供されていることを、新債務の保証人となるべき加藤清丸に告知すべき義務がない。(ハ)右加藤が本件債務の保証人となつたのは、被告人の右不告知に基く誤信によるものではない。というに帰する。しかし、右(イ)及び(ハ)の点は、後段説示のように、被告人が本件建物を担保に供することを要件として、加藤清丸に保証人となることを依頼するに当つて、故らに、本件建物が己に他の債務の担保に供せられていることを告げなかつたため、右加藤は本件建物を完全な担保物と信じて、被告人の依頼に応じ、保証人となつたという事実によつて、これを認むるに難くないのである。

そこで、被告人に右(ロ)の告知義務があるかどうかについて検討すると、記録中、原審における証人岩崎政見に対する裁判官の尋問調書の供述記載に、登記簿謄本二通の記載を綜合すれば、被告人は昭和二二年一〇月頃、右岩崎から金一〇万円を、利息月一割、弁済期一箇月後と定めて借り受け、その債務のため、当時未登記の本件建物を売渡担保に供し、右債務を弁済しないときは、その建物を右岩崎名義に所有権取得の登記をしてもよいという約定の下に、それに必要な書類の全部を同人に交付していたこと、及び本件金員借受の当時においては、その建物は被告人名義に所有権取得の登記が為されていたが、被告人は未だ右債務を弁済しておらず、従つて右担保権は尚存在していて、本件建物は何時右岩崎又はその承継人の名義に所有権の取得登記をされるかも知れない不安な状態にあつたことを看取することができる。しかも、原審第二回公判調書中証人加藤清丸の供述記載に、記録編綴の抵当金員借用証書(写)の記載を綜合すると、被告人が右加藤に保証人となることを依頼するに当つては、本件建物を担保に供することを要件としながら、己に前敍売渡担保に供してある事実を告げなかつたので、右加藤は、それが瑕疵のない担保物であると信じて保証人となつたこと、及び若し右加藤が、本件建物が右の如く、何時他人の所有名義に登記されるかも知れない不安な状態にあつたことを知つていたとすれば、同人は保証人となることを承諾しなかつたであろうことが認められるのであつてそれは又、取引の通念に合致するところである。かように、不動産を担保に供することを要件として、他人に債務の保証人となることを依頼するに当つて、その不動産が何時第三者の所有名義に登記されるかも知れない不安な状態にある場合には、債務者は保証人となるべき者に対して、その事実を告知すべき義務あることは、信義誠実の原則に照らし、けだし、疑を容れないところで、被告人に告知義務違反あることは勿論である。

されば、本件建物を前敍の担保に供してある事実を告知せず、右加藤をして無瑕疵の担保物と誤信させて、保証人となることを承諾させ、因て金員借用の目的を遂げた本件において、被告人に詐欺の犯意あり、欺罔行為あり、これに基く不法利得の事実あることはまことに明らかで、到底詐欺(不法利得)罪の成立を否定することはできない。原判決説示の本件建物の価額、被告人の経済状態、弁済意思の有無の如きは、なんら本罪の成立に消長を及ぼすべきものではない。結局、原判決は敍上の点について認定を誤り、詐欺罪を構成する事実に対し、無罪の言渡を為したもので、その誤が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!